熱抵抗の計算のしかた

熱抵抗は簡単です。IC内部から出る熱で、IC内部のダイの温度が半導体にダメージを与える温度より小さくすれば良いのです。
このために使われるのが放熱システムです。この放熱システムの責務は、半導体のダイの温度上昇を外部に伝えるという働きをします。この装置の性能は熱抵抗という値で表示する事ができます。
熱抵抗はθ(シーター)で表し単位は℃/Wです。
ちなみに抵抗はRと呼び単位はΩです。

この単位はすごく簡単で、
熱抵抗(℃/W) = 温度差(℃) ÷ 熱源の熱量
です。たとえば、空気に流し込む放熱板に100Wの温度エネルギーを与えた側の温度が50℃だとします。空気の温度を20℃とします。
この放熱板の熱抵抗は
温度差 = 50 - 20 ℃
熱量 = 100W
なので
   30/100 = 0.33℃/W
となります。

で、この熱抵抗、普通は直列の抵抗のように直列に繋がります。
メーカが出している資料の中で、θjc -- パッケージと中のチップ(ダイ)の間の熱抵抗というのがあります。
また、ユーザーが放熱版とパッケージの間にはさむシリコングリスの熱抵抗もあります。
これらは直列抵抗のように繋がり、結果として放熱システムの性能を下げます。

θjc はマニュアルによるとLM3886TF で 2℃/W. シリコングリスは0.5℃/W程度で考えましょう。
さて、LM3886 では、どの程度のエネルギーを放出するか。それがわからないと話になりません。

これの計算は後でしましょう。仮に10Wの熱エネルギーを放熱するとします。
(エネルギーはJ(ジュール)で表すのですが、1J = 1W/秒なのでこのまま行きます)

次に使用する外温度を設定します。通常25℃という計算をするのですが、一応プロたるもの夏の暑いさかりでも動くように40℃とします。(私はプロじゃないけど)

逆に半導体はどこまで持つかというと、150℃となるのですが、まあ、ここまで行くと、音もくそもないので一般的に言われている125℃までで設計します。

さて、放熱システム全体に与えられた温度差は引き算です。
温度差 = 125-40 = 85℃です。
LM3886 が出す熱量は10Wとしましたので、
熱抵抗 = 温度差 / 熱量 = 85/10W = 8.5℃/W です。

では、8.5℃/W の放熱板を買ってくればいいんですか。というと違いまして、さきほどのθJcとシリコングリスの熱抵抗を考えていません。
この分を差し引きます。

放熱版が使える熱抵抗 = 8.5 - (θjc + シリコングリスの熱抵抗) = 8.5 - (2 + 0.5)
= 8.5 - 2.5 = 6℃/W となります。

さて、そんな放熱版はどの程度の大きさの物かわかりませんよね。
いいサイトがあります。
http://www.car-e.net/~dai/emv/hounetu.htm
というか、私の計算なんかより、ハクがあります。TJなんか175℃で考えています。

さて、この中でアルミで作った放熱版というのがあります。t=2mm は厚みが2ミリの放熱版だとあります。6の所だから、100cm2らしいです。10cm*10cmぐらいという事になります。

さて、次の問題はLM3886はどのぐらい発熱するかです。

実を言うと、こっちの方がやっかいなので書かなかったのですが。
これはVcc(電源電圧)と負荷の抵抗で決まります。

とりあえず、±25V で 8Ωの負荷が繋がっているとします。マニュアルの13ページには次のように計算しろってあります。
PdMAX = (VCC*VCC) / (2*PI^2*RL)
実際に入れてみましょう。VCC は全電源電圧なので、プラス側の25Vとマイナス側の25Vを足して50V, 負荷は純粋な8Ωの抵抗が付いているとします。

PdMAX = (50*50)/(2*3.14*3.14*8) = 15W らしいぞ。
さて、やりますか、15W で再計算
使える温度差は、先ほど計算した通り85℃とします。

熱抵抗は 85℃ / 15W なので、5.66℃/Wになります。
後は、先ほど計算した2.5℃/Wを減算して、5.66-2.5 = 3.16℃/Wとなります。

グラフからは、2ミリのアルミを使って180cm2程度と出てきます。13.5cm*13.5cmほどいる事になりますね。

さて、せっかく計算したけど、LM3886 のデーターブックには答えがのっています。

Page 11 に Max Heatsink Thermal Resistance .. のグラフです。
ただし、コンパウンド(シリコングリスなど)の熱抵抗を0.2 とした上でTFタイプじゃない、非絶縁のFタイプを使っています。なので、1℃/Wは減らさないとなりません。
減らしたら、どの程度の放熱版がいるかわかると思います。

さて、これは現実的ではない放熱版がいるぞ。という人もいるかもしれません。

そうです、現実的ではありません。だいたい20Wもの出力を連続で人は聞ける物ではありません。
効率92dB/W のスピーカは1Wを入れると92dB/1mの音圧を出します。
で、ここに20W入れるとどうなるか。単位はW なのでdB換算にはdB=10*log(比率) として計算します。dBにdB倍率のかけ算をする場合は、これを足し算にします。
92dB + (10*log(20) = 92db + 13dB = 105dB/m となります。
このぐらいの出力は出すかもしれない。車のクラクションを1m前で聞いた音よりは小さい。3mばかり離れた時の音として考えて下さい。ただこれだけの音量を連続して出すことは無いでしょう。
また±25Vでは8Ω時に25Wしか出せません。計算上は ±25Vで作る交流の平均電圧 25/√2=17.667V, を 8Ωにかけた時の電力 17.667^2/8 =約 40W だけど、アンプにはロスがある。このロス分が熱になって放熱版が必要になるのです。(実際には他にも熱になる要因はあるけど90%以上はこれで正しい)
これを損失といいます。トランジスターではPcと書きます。損失のエネルギーは熱になります。いや、その全部が全部熱になるとは限らないけど、99.999??% ぐらいは熱になります。
どうです。面白いでしょう。(ボブロスだったら、きっと、楽しいでしょ。簡単でしょ。て言うに違いない。ああいうユーモラスな感覚があったらいいのになあ)

ということで、私はだいたい±26-28Vの電源を使って4℃/W程度の放熱版を使う
つもりです。(というか、私の使い方だとだいたい1W以下で使うので気にしていない)

でも、私は熱計算好きになれないのです。
熱計算していると、Tj (熱を作り出す半導体の温度)が120℃とかいう世界で計算する必要があって、気が滅入るんです。そういう想定をするだけで、熱くなるんです。

でも、熱暴走しないフィードバックとか考えるとケース温度差は考えないといけないし。。
ただ、難しくないでしょ。少なくともLM3886は熱暴走しないし。

ちなみに、RSコンポーネンツには 17F98シリーズのデータが見られます。こちらには温度上昇と加熱電力という表になっているので割合わかりやすいです。が少し注意。これは放熱版の真ん中あるいは、全体に熱を加えた値で、常時流すには無理です。
まあ、それでも上の15Wという話ならば、、こんな風に考えます。

tj=125℃、周囲温度40℃。シリコングリスとθjc の合成熱抵抗を 2.5℃/Wとします。熱エネルギーを15Wとします。
tj=125℃なので、放熱板にかかる温度は 125℃ - (2.5*15W) = 87.5℃になるはずです。
外温度が40℃ということなので、放熱板が使える温度差は47.5度です。
47.5℃で15Wというのをクリアーするのを探します。
17F98シリーズだとすると、L=100mmという事になります。98mm*17mm*100mm なんか、さっきのアルミより大きくないか?
まあ、ともかく、17F98L100 1個2000円なら、厚み17mm ですれすれ入る。で、±25Vで25Wを8Ω負荷で連続して流しても大丈夫だそうです。見ればわかると思うけど放熱板の温度は最大87.5℃になります。ま、実際には放熱板のど真ん中にICが付いているわけでないし、自由空間に浮いているという状態ではないので、100%そのまま信用できず。まあ16Wぐらいだったら連続で出しても音が割れるという事はない。というぐらいしか信用できない。